外国人を実際に雇用した際に起こるトラブル
作成日:2019年11月29日 更新日:2021年3月10日
株式会社しごとウェブ 佐藤 哲津斗
2019年4月施行の「改正入管法」により、日本国内の外国人労働者は益々増加傾向にあります。厚生労働省の発表では、2018年10月末時点での数は146万463人。一部によると、日本国内の労働者の46人に1人は外国人という計算もあります。国籍別では、中国(38万9,117人)がトップで、次いでベトナム(31万6,840人)、フィリピン(16万4,006人)が続きます。また、ブラジル、ネパール、韓国、インドネシアなども増加しており、日本での労働者は多国籍化の傾向にもあることが見て取れます。
[参照] 厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(平成30年10月末現在)
このように増加の中、懸念されるのが労働者と雇用側でのトラブルです。文化の違いなどの問題もありますが、採用検討前にあらかじめどんなトラブルが起こりうるか・起こりやすいのかを知っておくことで、ある程度回避することができるでしょう。外国人の採用で生じやすいトラブルについて、実際の事例を交えてお伝えします。
目次[非表示]
外国人の雇用に関して注意しておくこと
ではまず、採用時に起こりやすいトラブルについてまとめます。外国人を初めて採用してみようと考えている担当者・経営者の方は特に要チェックです。
在留資格がない・在留期限が過ぎている
ご存知の方も多いかもしれませんが、日本にいる外国人全てが日本国内で労働できるわけではありません。たとえほしい人材がいたとしても、「在留資格」というものを持っていなければ、雇用することはできません。
もう少し仕組みを詳しく説明しておくと、日本で働こうとする場合「就労ビザ」を取得しなければなりません。このとき、企業側は求職者が所有する「在留カード」を確認します。在留カードは、日本に中長期間滞在する外国人に対して所持を義務付けているカードのことで、記載の在留資格の範囲内であれば、日本国内で活動することができます。つまり、採用したい本人が持っていない場合、原則的に就労させることはできません。
採用時に起こりやすいのは、面接に来た外国人の在留資格を確認すると、在留期限が過ぎている(もしくは過ぎそう)、そもそも在留資格がない、などです。資格がないのに就労させた場合には「不法就労」となり、会社側も処罰の対象となってしまうため注意しましょう。
[関連ページ] 外国人を採用した際に知っておくべき就労制限と永住権について
不法就労となるケース
・不法滞在者(密入国者、オーバーステイなど)
・働く資格がない
・在留資格範囲外の仕事をする
在留資格のない外国人は働けないので、たとえば、観光などの短期滞在で入国した人材を働かせることはできません。また同じ在留資格でも「留学」では原則就労することはできません。留学生がアルバイトなどをするには、入国管理局から「資格外活動許可」を受けなければなりませんので、雇用側として覚えておきましょう。
また、在留資格にはそれぞれ許可された職種が定められています。そのため、通訳として来日している外国人が調理師をしているなど、資格と異なる仕事をすることは禁止されています。難民認定申請中の場合も許可なしでは就労できませんので覚えておきたいですね。
[参照] 出入国在留管理庁 在留資格一覧表
業務内容などの条件面を双方で意思疎通できていない
言語や文化圏の異なる外国人を採用する際には、当然日本人を雇うよりも採用時のミスマッチが起こりやすくなります。ミスマッチの例としてよくある例を挙げてみましょう。
・業務内容
・報酬・待遇
・キャリアパス
・日本語力・コミュニケーション能力
外国人を採用する際にすれ違いやすいのが先ほど挙げた在留資格の確認ですが、この他にも、「業務内容」「報酬・待遇」「キャリアパス」などの条件面に関する合意の部分で、すれ違いやすいです。
また、日本語力・コミュニケーション能力も、外国人の採用時に見極めにくい部分です。面接内容での意思疎通がうまく行くかどうかだけでなく、外国人の業務内容に合わせた日本語力・コミュニケーション力があるかどうか、他のスタッフとコミュニケーションは取れそうかどうかなどの観点からもチェックしましょう。
就労時に起こりうること
採用時には問題ないと思って雇用したものの、就労してみてはじめてわかることもあります。どんなことに気をつけてみておくと良いのかを知っておくために、外国人の就労時に起きやすいトラブルをまとめました。
残業の概念がない場合が多い
残業に関するトラブルは、外国人を就労させるときに一番起こりやすいトラブルです。
日本では、その日の仕事が残れば残業せざるを得ないというのが一般的な感覚としてありますが、外国では、就業する時間が決まっていて、定時にぴったりに帰るというのが基本です。外国人労働者はもしも仕事が残ってしまったら、明日以降に改めて行うというのが常識となっています。
長時間労働に寛容的な国は日本の周辺国のごく一部なので、採用時の労働条件に記載してある定時を過ぎれば帰宅するのが普通、という感覚。その日のうちに行うべき業務が終わらなかったり間に合わなかったりという場合、そもそもその仕事の締め切りや納期が早すぎると考えるようです。
よって、日本人社員などが「残業したほうがいいかな?」と周りの様子を汲んで、定時を超えて仕事をしているのを横目に、外国人労働者はあっさり帰ってしまう場合もあるでしょう。それに対して日本人社員から不満が出たり、経営者側からしても「残業を要請しても断られる」と困ったりすることもあります。
このような場合には、「残業をしない」としてしまうのではなく、「残業するとその分残業代が出る」ことをきちんと説明すると良いでしょう。外国人労働者が日本で働く大きなメリットは、母国では稼げないような高額賃金を稼げることです。基準賃金よりも割り増しした賃金を獲得できると知れば、残業への理解も進むはずです。
ある日突然いなくなることもある
外国人労働者に常に付きまとうのが「在留資格」「在留期間」です。なんらかの理由で在留資格がなくなってしまった場合、突然仕事に来られなくなるというのはあり得ます。
これは少数ですが、外国人の技能実習生の中には、日本への不法入国の機会と考えている人も存在します。こうした場合には、夜逃げのように行方不明になることもあります。
また、当人だけの問題ではなく、家族が病気になったなどの理由によって、急に母国に帰国してしまうこともあるでしょう。
このように、雇用している外国人労働者が急にいなくなってしまった場合には、どの場合でも速やかに入国管理局に連絡してその旨をおきましょう。なぜなら、その労働者がトラブルを起こした場合、その会社の従業員の監督不行き届きなどとして会社が新たにトラブルに巻き込まれるおそれがあるからです。
また、これは経営者側の問題ですが、最初に提示された報酬額が最低賃金を大きく下回っていたり、過酷な職場環境に置かれて耐えられなかったりする場合に、突然逃亡するケースが多いです。外国人だからと言って単なる労働力としか考えないスタンスは良くありません。戦力として雇い、長期的に働いてもらうためには、事前に結んだ雇用契約の内容を会社側が遵守することが大切です。会社として、日本人労働者と同じように対応しましょう。
日本の文化・風習に馴染めない場合も
日本に働きに来る外国人は少なからず日本に興味を持って来日している人が多いはずですが、やはり日本の文化・風習に馴染めない人も一定数います。
言語が違えば、文化も全く違います。よくあるのが、日本流の接客で、「お辞儀」や「謝罪」の必要性が理解できずに、お客様からクレームや2次クレームを受けてしまうことです。外国人労働者を採用する際には、こうした異文化同士のトラブルが細かいところで発生する可能性があることを念頭に置いておくことが必要です。
外国人の退職時に起こりうること
退職時においてもトラブルは起こり得ます。コミュニケーションを密に取ることが重要になります。
退職に納得しないなど、意思疎通ができない場合がある
外国人労働者については「解雇理由に納得しない」「引き継ぎの感覚がなく、その場限りで退職する」「不当解雇を理由に訴えられる」などがよくあるトラブル事例です。
会社としてこのような事態を避けるためには、雇用契約書に退職・解雇理由を明確に記載し、退職時には労働者との話し合いを十分に行うことで、双方に納得の行くように持っていくことが大切です。
外国人労働者が退職する際、基本的には日本人と同じように退職処理を行いますが、必要な場合は「退職証明書」を発行します。退職した本人は、14日以内に入国管理局に届け出必要がありますのでその旨を伝えて促しておきましょう。
トラブルを未然に防ぐためには
では、ここまで述べたような外国人の就労によるトラブルが起きないために、会社側としてはどのような予防策を講じておけば良いのでしょうか。
在留資格は採用前にきちんと確認しておく
まず、外国人を採用するための面接段階で、在留資格・在留期間の確認はきちんとしておくべきです。日本国内で働くことができるのか、それはいつまでなのかに加えて、本人の希望としてはいつ頃まで働きたいと思っているのか、どんなキャリアビジョンを持って働きたいと思っているのかを合わせて聞いておくと良いでしょう。
[関連ページ] 外国人を雇用する際に必要となる就労ビザ・在留資格の確認と申請に必要な費用
社内の受け入れ体制を整えておく
外国人労働者に日本のやり方に合わせてもらうことも重要ですが、それと同時に社内の体制を整えておくことも重要な課題です。労働条件などの「箱」の部分はもちろんで、むしろそれよりも、同僚とのコミュニケーションはうまく取れそうか、課題ができた時にも解決法を見出せるような柔軟性や外国人労働者の受け入れ体制が既存社員に整っているのかなどを確認しておきましょう。
労働条件などは細かく確認しておく
言語コミュニケーションが十分でない可能性を考え、外国人労働者を採用する際には特に細かく労働条件は確認をし、双方で合意を得るようにしましょう。このことは、就労中だけでなく退職する際のトラブル回避にも役立ちます。
外国人労働者が定着する仕組みづくりをする
外国人の採用にも慣れてきた会社が次に直面する課題が、「育成問題」です。初期には「仕事内容が身につかない」、それ以降には「そもそも定着率が悪く、しばらくすると合わなくてやめてしまう」ケースが多いようです。
仕事内容については、言語や文化の違いによって、たとえ基本的な言語コミュニケーションに問題がない場合でも、マニュアルの理解が進みづらいこともあります。タイなどの東南アジアでは幅広い世代がゲームや動画に慣れ親しんでいることからこうした仕事のマニュアルには画像や動画がよく活用されています。外国人労働者の社内教育にもこうしたゲーム要素や映像を取り入れることも有効でしょう。
また、外国人労働者の定着率に課題を感じているのなら、そもそもの仕事環境を見直す必要があるでしょう。たとえば中小企業では、人手不足のために採用した後、日本人社員と同じことを求め続けるケースも多いです。生まれ育った環境や文化が異なる人に、日本人社員と同じように日本語ができることを望み、同じように職務に就くことは現実的ではありません。それが優秀な人材であっても同じです。細やかに意思の確認やコミュニケーションを取りつつ、経営者や上司として外国人労働者が仕事をしづらく感じている点はないだろうか、ハードなことを求めすぎてはいないだろうかなどの視点から見てみることが必要です。
まとめ
このように、言語・文化の異なる外国人の採用には、日本人よりもハードルが高く、思わぬ初歩的なところでトラブルが起きてしまうこともあります。とはいえ、外国人労働者の雇用は、企業が国際化するための大きなチャンスでもあります。海外に進出する足掛かりにもなり得るため、企業として積極的に取り組む意味合いは大きいです。
実際に検討しているのなら、自社だけで採用準備を進めるよりも、エージェントに相談するのがスムーズです。優秀な人材を求めている、初めて採用してみようと考えている、などの場合には特にエージェントの利用がおすすめです。
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